「神山の土地」というのは、神山で物件探しをしているときに見つけた、ロケーションといい、アクセスのしやすさといい、広さといい、私たち夫婦の希望にぴったりの場所でした。地元の人に尋ねまわり、地主さんを探しあてて何度も交渉し、感触は悪くはなかったのですが、ある事情で断られた物件です。

何ヶ月ぶりかに伺うと地主さんは留守で、夜に電話したところ「来るな」と言われましたが、そういうわけにはいきません。翌日また伺いました。ご主人はお酒を飲んでくつろいでいて、「来るな言うたのによう来たな。まあ上がれ」と部屋にあげていただきました。お願いするうちに、前に断られた「ある事情」を解消するために、「ある人」に私から頼んでみてOKをもらえば貸してもいい、というところまで話が進みました。

面識があった地元の人に「ある人」のお宅を教えてもらい、相当酔っていたその方から「わしもそば好きやから毎日食べに行く」とOKの感触を得ました。その返事を持って地主さんのところにとって返し、「貸したる、絶対成功させろ」という地主さんと何度も固い握手を交わしながら、「ついにやった」と胸がいっぱいになったのはいうまでもありません。

ところがです。翌日になり、地主さんも「ある人」も酔いが覚めると気持ちが変わってしまい、断りの電話がありました。再び神山に向かってお願いしましたが、今度は頑として受け付けてもらえませんでした。漫画のような出来事でしたが、ほんとうに物件探しは一筋縄ではいかないものだと改めて感じたものです。

地主さん夫婦は人間味のある方で、何回も私たちの話につきあってくれたことに感謝の気持ちを持っています。つい最近、許認可の手続きに行った徳島県の土木事務所で偶然奥さんにお会いし、徳島市八万町に場所が決まったことなどをお話ししました。きっと神山からご夫婦で食べに来ていただけると思うのですが。(続く)